東京地方裁判所 平成11年(ワ)11625号 判決
原告 吉田正明
原告 明治損害保険株式会社
右代表者代表取締役 宮崎富士夫
右両名訴訟代理人弁護士 小河原泉
被告 有限会社ヤマモト
右代表者代表取締役 山本浩
右訴訟代理人弁護士 徳田修作
右訴訟復代理人弁護士 平田雅也
主文
一 被告は、原告吉田正明に対し、六四万〇九五〇円及びこれに対する平成一一年六月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告は、原告明治損害保険株式会社に対し、一二五万円及びこれに対する平成一一年六月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用はこれを一〇分し、その一を原告らの負担とし、その余は被告の負担とする。
五 この判決は、第一、第二項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
1 被告は、原告吉田正明に対し、七一万〇九五〇円及びこれに対する平成一〇年一一月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 被告は、原告明治損害保険株式会社に対し、一三七万円及びこれに対する平成一〇年一二月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 本件は、被告からドイツ製の中古車(以下「本件車両」という)を購入した原告吉田正明(以下「原告吉田」という)が、納車を受けてから一週間も経たない日に、走行中、車両のダッシュパネル裏から出火して、右車両を全焼したことから、被告の販売した車両の整備点検及び安全を確認しないで販売した過失があるとして、債務不履行ないし不法行為を理由に、それにより被った損害を、原告吉田が加入していた自動車保険で填補した分の一二五万円は保険代位により取得した原告明治損害保険株式会社(以下「原告保険会社」という)が、残りの損害金額については原告吉田自身が、各自弁護士費用とともに賠償請求をした事案である。
二 争点(本件車両の出火責任の所在)
(原告らの主張)
中古車を整備して販売する業者は、自動車整備の専門家といえども通常発見できないような設計ミスによる構造上の欠陥を除いては、販売車両の全てにわたり整備点検をし、安全な車両であることを確認して販売すべき注意義務がある。
しかるに、被告は本件車両を整備して販売したものであるが、オーディオの配線部の緩み及び損傷について整備点検及びその安全を確認しないで販売した過失がある。
原告吉田は、本件車両を購入してから、本件車両に手を加えたり、整備工場などで整備・修理をさせたことはない。
(被告の主張)
被告の本件車両売買の際に整備する範囲は、一部のみであり、オーディオ部分は含まれていない。従って整備に関する過失は生じない。
原告吉田が暖気運転をしながら駐車中にオーディオの配線部分に触れていた際に本件車両の火災が発生したものである。
第三争点に対する判断
一 証拠等により認定できる事実(争いのない事実は証拠を掲記しない)
1 原告吉田は、平成一〇年一〇月三日、YOU COLLECTION YAMAMOTO こと被告から本件車両であるBMW七五〇ハイライン六五〇EG五〇(初年度登録平成二年二月)を車両本体価額一三六万円、特別仕様三七万円、諸費用三万八〇〇〇円、自動車税三万一八〇〇円、消費税八万八四〇〇円合計金一八八万八二〇〇円で購入する契約を締結し、本件車両は平成一〇年一一月一七日に納車された。原告吉田は代金一八八万八二〇〇円を平成一〇年一〇月二六日、訴外ろうきん春日部支店を通じて被告指定の銀行に振り込むよう依頼し、右ろうきんはその振込を行った。
2 原告吉田は、平成一〇年一一月二三日午後一一時四五分ころ、本件車両を運転し、自宅から約一・五キロメートル離れた勤務先会社に出勤のため向かったところ、会社の少し手前あたりでダッシュパネル中央部のフロントガラス側から煙が出始めたので、会社の駐車場に停め、右駐車場に停めてある原告吉田が運転する業務用トラックに備え付けてあった消火器を取り出して消火しようとしたものの消火できず、一一九番通報をした。(甲六の2、九、原告吉田)
右通報の一〇分後くらいに消防車が到着し消火したが、本件車両は全焼した。(甲四、九)
3 原告吉田は、原告保険会社と次の自動車保険契約を締結した。(甲三)
保険の種類 自家用自動車総合保険
保険期間 平成一〇年七月三一日から一年間
被保険自動車 家庭用普通乗用車(大宮三三ゆ七七〇四)
車両保険金額 一二五万円
原告吉田は、平成一〇年一一月一七日、前記被保険自動車を処分し、本件車両を新たに購入したため、車両入れ替えにより前記保険契約の帯特約に基づき、本件車両が被保険自動車になった。(弁論の全趣旨)
但し、車両保険金限度額は、入れ替え前の一二五万円のままであった。(甲三)
4 原告保険会社は、前記保険契約に基づき、平成一〇年一二月二九日に原告吉田に対し、車両保険金限度額である一二五万円を支払った。(甲一〇)
5 本件車両の購入額は総額で一八八万八二〇〇円であるところ、原告吉田は、平成一〇年一二月二八日、本件車両の登録抹消手続を司法書士に依頼し、その費用として二七五〇円を支払った。(甲一、五)
二 争点について
1 前記認定事実及び証拠(甲六の2ないし10、八)によると、本件車両の出火の原因は、ダッシュパネルの裏あたりであるカーオーディオの配線の短絡(ショート)による発火によるものであり、本件車両は原告吉田のところに被告から納入されて間もない時期であったこと、右車両は中古車であり、しかも初年度登録から約一〇年を経たものであることを認めることができる。
ところで、中古自動車を整備の上販売して利潤を得る被告のような業者は、販売車両である中古車の走行の安全のために一定の整備点検をした上で当該車両を売り渡す売主としての債務を負っているものと考えられる。
その安全性の点検整備の箇所や程度は、それぞれが持つ中古車の使用経過年数や車両の状態等に合わせて通常必要と考えられる範囲で売主が行うべきであるところ、その範囲は単に走行機能に関する部分に限定されるものではない。一般に中古車の販売の実態からすると、走行機能に関する走行距離とか車検年数あるいは車の色とか塗装の状態といった事柄の他に、オーディオ付か否かとかアクセサリーの付属状態についても販売車両の特徴として触れているのが通常であり、中古車を買う人間も、単に物理的走行機能だけに着目して購入車両を決めるものではない。そもそも走行機能といっても、顧客が対価を支払って求めるのは、単にエンジンや足回りといった各個の物理的走行機能だけが中古車販売の対価となるのではなく、欠陥車やリコールの対象となっている部分のような自動車整備の専門家といえども発見ないし対応できないようなものを除いて、車両全体の安全性がある程度確保されていることが整備した中古車車両販売の前提となっているはずである。
これを本件について見るに、本件販売車両と一体になったカーオーディオの配線部分が短絡して火災により全焼してしまうような整備状態の車両を販売した被告は、販売後わずかしか経っておらずその間約一五〇キロメートル走行したにすぎない本件車両について、原告吉田の使用による損耗を考慮に容れる余地がなく、当該事故事実自体から相当程度の蓋然性をもって本件車両の整備不良ないし点検不良があったものと推認できる。
それゆえ、被告において、本件車両が被告の整備点検を怠っていないこと、すなわち売主たる被告の責めに帰すべき事由によらないことの主張と立証が十分なされない限り被告は原告に対して債務不履行の責任を免れないものというべきである。
2 被告は、出火の原因は、原告吉田が出火前にオーディオの配線をいじったためであると主張するが、原告吉田はこれを否定しており、被告の右主張を的確に裏付ける証拠は見当たらない。被告はこれを立証するため証人石山の尋問を申請するが、乙第三号証の同人陳述書からも明らかなようにこの点に関する石山供述は、本件事故の原因に直接関係する部分については同人が直接原告吉田から見聞きしたものではなく、実体験に基づくものではないこと、加えて同人の見聞した事実を裏付ける客観的な補強証拠も本件証拠上見当たらないことにかんがみると、採用の必要がないものというべきである。
また、被告は、オーディオの配線の点検整備は本件車両の売主としての責任の範囲外であると主張するが、果たして一概にそのようにいえるかは前記1で説示したところからは疑問であり、走行中に車両火災に至るような車両の安全性を欠いた状態であったものであり、たとえ出火箇所がダッシュパネル裏にあることやそれが法定点検整備項目外であり、当該配線チェック専用のテスターがないというようなことをもってしても、それだけでは被告の責めに帰すべき事由に当たらないことの主張及び立証としては不十分というべきである。
3 したがって、被告には原告吉田に対する関係で、売主としての債務不履行があったものということができるものの、他方、右に認定説示したところからは被告の販売における不法行為による過失が積極的に認定できるわけではないので、原告の被った損害については、本件車両の購入にかかった代金額一八八万八二〇〇円及び本件車両の登録抹消手続費用二七五〇円は債務不履行による火災事故と相当因果関係にあるものと評価できるが、原告らにおいて本件訴訟追行にかかった弁護士報酬については、右債務不履行による損害とまでは認めることができないものというべきである。
第四結論
以上によれば、原告らの被告に対する請求には一八九万〇九五〇円の限度で理由があり、そのうち一二五万円については保険代位により原告保険会社が被告に対する債権を取得し、残りの六四万〇九五〇円は原告吉田の損害賠償債権となり、当該各債務の履行遅滞は原告らが本訴を提起して訴状が被告に送達された日の翌日である平成一一年六月五日からと考えられるので、これらの範囲内で原告らの請求には理由があるので認容し、その余は理由がないのでいずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判官 福島政幸)